
サステナビリティ トップメッセージ
中期経営計画2026は「強み」を更に強化して、
成長ストーリーへの道筋をつけていく
代表取締役会長

経営理念とビジネスモデル
日本トムソンは1950年の創業以来、「社会に貢献する技術開発型企業」という経営理念のもと、高品質で高精度な製品をお客様に提供してきました。当社グループが製造・販売する直動案内機器およびニードルベアリングを中心としたベアリングは、様々な産業で重要な役割を果たしており、私たちはこの基幹部品を通じて、世界中の産業を支えています。ベアリングは「産業の米」と呼ばれるように、製品や機械の動作に不可欠な重要部品であり、その品質が全体の性能に大きく影響します。当社は、このような重要な製品を提供する責任を強く認識し、高度な技術力と確かな品質で市場をリードしてきました。
大手メーカーと異なるビジネスモデル
当社グループのビジネスモデルは、玉軸受を中心とした大手ベアリングメーカーとは異なる独自のものです。大手ベアリングメーカーは、玉軸受を中心に幅広い製品ラインアップを持ちつつも、大量生産に特化しており、特定製品の供給に時間がかかることが一般的です。それに対して、当社グループは産業機械向け用途を中心とした直動案内機器およびニードルベアリング等の「多品種生産品」に特化し、お客様の多様なニーズに柔軟かつ迅速に応えることを使命としています。また、当社グループの強みの一つである、カスタマイズ品の売上高比率は約半分を占めています。この戦略によって、世界中の多くのお客様から高く評価され、特に品質と信頼性が重視される市場で独自の地位を確立しています。
当社グループの技術力は、長年にわたる研究開発と現場の経験によって培われたものです。日本で初めてニードルベアリングを開発し、更にローラ循環式の直動案内機器でも世界初の製品化を実現しました。これらの技術革新は、社員一人ひとりの努力と創意工夫の成果です。また、技術の継承も当社の重要な課題の一つであり、先輩社員から若手社員へと知識や技能が脈々と受け継がれています。若手技術者も、新たな挑戦に積極的に取り組んでおり、当社グループの未来を切り拓く力となることが期待されます。当社グループの企業文化には、「真面目さ」と「誠実さ」が根付いており、社員は常に一生懸命仕事に取り組み、誠実な姿勢で業務を遂行しています。この姿勢がお客様や社会からの高い信頼を築き、長年にわたって当社グループの製品やサービスがお客様から高く評価されている理由の一つであり、コアコンピタンスの源泉でもあります。
当社グループは、大手メーカーとは異なる立ち位置で、お客様の多様なニーズに応え続けています。特に、南米、中近東、南アジアなどの市場では、少量で高品質な製品が求められており、そのようなニーズに対応できる独自の存在です。お客様が必要とする製品を必要な時に、確実に、適正な価格で提供することが当社グループの使命であり、これが競争優位性を支える原動力となっています。
今後の課題と経営者の役割・責任
一方、当社グループの課題として、棚卸資産が多いこと、大口案件への対応強化、需要動向を予測した効率的な生産体制の確立などが挙げられます。今後は強みを更に伸ばすことはもちろん、これらの課題についても積極的に取り組み、改善を図ることが「収益力」「効率性」「成長力」を高めるために必要です。私の役割はリーダーシップを発揮して、これらの改善を企業価値の向上に繋げることだと考えています。
中期経営計画2026とIKO VISION 2030実現に向けて
2024年度から、新たに「中期経営計画(以下、中計)2026」がスタートしました。当社グループは、「IKO VISION 2030」(以下、IKOビジョン)として「お客様と一番につながり価値を共に創りだす「技術開発企業」に~サステナブルな未来を共創する~」をテーマに、2030年度に売上高1,000億円以上、営業利益150億円以上、ROE10%以上、時価総額1,000億円以上を達成することを目標としています。このビジョンを実現するための「中計2026」では強みを持つ市場、地域、製品に積極的に投資し、効率的で収益性の高いビジネスモデルの構築を目指します。また、将来の基盤となる事業に先行して資本を投入し、持続可能な成長への道を拓くことも重要です。
具体的な目標として、2024~2026年度の3か年平均で営業利益90億円以上、ROE8%以上を掲げています。更に、財務・資本政策では、キャッシュを成長領域に投資しながら、株主還元も強化し、総還元性向を50%以上に引き上げる計画です。
事業環境認識と中計2026で目指す姿
現在、社会はAIの応用拡大、半導体業界の躍進、人手不足による自動化・ロボット化の進展、そして環境意識の高まりという多岐にわたる変化に直面しています。これらの変化は、当社グループにとって成長のチャンスを広げるものであり、この機会を捉えて、「社会に貢献する技術開発型企業」として、お客様に新たな価値を提供し続けることが求められます。一方で、地政学リスクの高まりによるグローバル市場の分断や、上場基準の厳格化、そして人的資本を含めたサステナビリティ意識の高まりなどのリスクも存在します。これらのリスクに対応するには、過去の成功にとらわれず、常に挑戦し続け、未来に向けた大胆な変革を進めることが必要です。「中計2026」を通じて、当社グループはお客様と社会から選ばれ、魅力ある企業へと進化を遂げることが求められています。「Connect for Growth~I・K・Oでつなぐ、革新の未来~」というビジョンを役職員全員が共有し、ステークホルダーとともに課題解決に取り組むことで、新たな時代を創造するだけでなく、その成果として、企業価値、すなわち株価の向上を実現していく必要があります。
中計2026の実効策と取り組み
「中計2026」では「強い領域」に集中し、収益力・効率性を高めること、そしてグローバルな体制を再構築して、成長性を追求することを目指しています。当社グループは業界のニッチトップ、カスタマイズニッチトップ、多品種ニッチトップを結び付け、「ニッチトップグローバル」の実現を図ります。世界の設備投資動向に業績が影響される体質は変わらないものの、以下の2つが重要です。①成長業種(半導体製造装置、産業用ロボット、医療機器など)で業界ポジションを強化すること、②世界中で新しい市場に挑戦することです。生産面では、過去の急激な需要増加時の経験を踏まえ、需要動向を先取りした平準化生産が求められます。
成長分野である半導体製造装置、産業用ロボット、医療機器、太陽光発電、自動車用バッテリー製造設備などへの取り組みを強化し、持続可能な成長を目指していきます。特に、半導体製造装置や医療機器分野では、コロナ禍を経て需要が急増しており、これらの分野でのシェア拡大を図ります。また、安定した成長を実現するために、サステナビリティの観点からも持続可能な成長分野への投資を積極的に進めていきます。
更に、新興市場への進出にも力を入れています。アフリカ市場では、南アフリカで現地の上場企業とのパートナーシップを築き、新たな市場開拓を進めています。インドやバングラデシュでも新たな代理店と連携し、これらの新興市場へのアクセスを強化しています。これにより、当社グループとして更なる成長の機会を追求し、「ニッチトップグローバル」のプレゼンスを一層高めていく考えです。
この実行体制では、以下の5つの重点課題を設定しています。
①地域別の営業モデルの確立、②グローバル生産モデルの確立、③技術サポートの強化/海外R&Dの構想と実現、④需給バランス/適正在庫の体制づくり、⑤迅速・柔軟な意思決定/グローバルサポート体制の構築です。これらの課題に対応するため、営業部門、生産部門、技術部門、管理部門を横断するプロジェクトを立ち上げました。このプロジェクトには各部門から選出されたメンバーだけでなく、責任と権限を持つ執行責任者が参加し、全社的な視点で課題解決に取り組みます。過去の部門横断プロジェクトでは、支社長や工場長、優秀な若手の技術者や営業担当者を配置換えすることで組織の活性化を図り、成果を上げてきました。
(参照 統合報告書2024 P.41「部門横断プロジェクト座談会」)
IKO VISION 2030へ向けた取り組み
IKOビジョンでは、特にグローバル展開と技術開発の強化に重点を置いています。これまで当社は、ベトナムや中国での生産拠点を拡充し、グローバル生産体制を整備してきました。主力製品である小形直動案内機器は、現在、海外生産比率が約5割に達しており、更なる成長を目指しています。また、中国でのニードルベアリングの生産は激しい価格競争がある中でも、高い利益率を確保しており、これらの成果は、当社の戦略が正しい方向に進んでいることを示しています。今後もこの方向性を維持し、更なる成長を目指していきます。
また、IKOビジョンに向けた取り組みの一環として、ベトナムのクアンニン省に新たな生産拠点を設立し、主力製品の生産を強化する予定です。この新工場では、最先端の生産設備を導入し、更なる生産効率の向上と高品質の確保を図ります。その他、産業用ロボットや減速機等で使用されるクロスローラベアリングの生産能力も増強し、日本国内と海外の生産分担を明確にすることで、グローバル市場での競争力を一層高めていきます。これにより、お客様の多様なニーズに応えつつ、持続的な成長を実現することができると考えています。
更に営業面でも、積極的に海外市場の開拓を進めています。前中計では、海外販売比率を50%まで引き上げることに成功しましたが、「中計2026」では55%以上、更にIKOビジョンでは60%を目標としています。この目標を達成するため、当社グループでは海外拠点の拡充や現地法人の設立を積極的に進めています。米国、欧州、中国、タイをはじめ世界各国に販売拠点を設立しており、各地域の市場に密着したサービスを提供する体制を整えています。また、各国のパートナー企業との連携を強化し、Win-Winの関係を築くことで、長期的な成長を実現します。販売活動においては世界中の代理店との関係が重要であり、全世界の拠点を毎年1回は訪問し、代理店やお客様の声に耳を傾けることを心がけています。
サステナビリティ活動と企業価値の向上
当社グループのサステナビリティへの取り組みは、環境保護や社会的責任を果たすだけでなく、企業価値の向上にも大きく貢献すると考えています。私たちは事業活動を通じて、社会に貢献しながら持続可能な成長を追求しています。具体的には、環境に配慮した製品の開発、持続可能なサプライチェーンの構築、地域社会との共生など、様々な取り組みを進めています。これらの活動を通じて、社会からの信頼を更に高めて、持続可能な未来を実現していくことができると考えています。サステナビリティは当社グループの経営戦略においても極めて重要な要素であり、全役職員がその意義を理解して、日々の業務に反映させています。
当社グループでは、2021年に温室効果ガス(GHG)排出量の削減やマテリアリティに関する具体的な目標を掲げました。現在は、2030年度までにGHG排出量を2022年度比42%以上削減し、2050年度までにカーボンニュートラルを達成することを目指しています(2024年2月に目標改定)。この目標を達成するためには、技術開発だけでなく、組織全体の意識改革や業務プロセスの見直しも必要です。最終的には、これらの取り組みを通じて、社会的責任を果たすとともに、企業価値の向上を目指しています。
また当社グループでは、社員一人ひとりの成長が企業の成長に直結するとの信念のもと、社員の成長を支援する仕組みを整えています。柔軟な働き方の導入やキャリアパスの明確化を通じて、社員が自己実現を追求できる職場環境を提供しています。特に、変革を担う人材の育成に注力し、若手社員が積極的にアイデアを出し、自らの手でその実現に取り組む姿勢を重視しています。こうした取り組みを通じて、社員の自己実現と企業の持続的な成長を両立させることを目指します。3年前に人事制度を見直し、年功序列を廃止して、能力や実績、責任に応じた昇給制度を導入しました。これにより、社員が成長に応じて報酬を得られる仕組みが整いました。当社の離職率は低く、働きやすい環境だと評価されていますが、現状に甘んじていてはいけません。自己成長を促進するための費用負担や学びの機会の提供にも力を入れています。今後は公募制度の導入等も検討し、チャレンジする文化を醸成していく予定です。また、ダイバーシティの推進も組織全体の活力を高め、革新性を促進するためには非常に重要なテーマです。当社グループでは、多様なバックグラウンドを持つ人材の活躍を奨励しており、特に、女性の活躍を推進するための環境整備に取り組んでいます。女性管理職の数は着実に増加していますが、依然として少ない状況です。また、外国人役員がいない状況も変えていく必要性を感じています。なお、海外では中国、ベトナム、欧米拠点の各部門で女性が実質No.2ポジションに就き、営業活動で成果を上げています。
ガバナンスにおいては取締役会の運営が改善され、以前は社長と発表者以外の発言が少なかったものの、現在は社外取締役も含めて活発な議論が行われるようになりました。社外取締役の皆様は重要会議にも出席し、スキルマトリックスを活かして、様々な視点から自由に活発な議論ができるようになっています。「中計2026」の策定にあたり、3名の社外取締役の皆様から人的資本の強化に関するアドバイスもいただいており、これを活かしていきたいと思います。
(参照 統合報告書2024 P.63「社外取締役座談会」)
株主価値の向上に向けて
当社グループでは、株主価値の向上を目指し、収益力の強化、株主還元の充実、そして資本コストの意識を高める取り組みを進めています。「中計2026」では総還元性向を50%以上に設定しており、利益が出た際は配当増や自社株買いを行う方針も打ち出しています。現在、当社のPBR(株価純資産倍率)は低水準に留まっていますが、これは自動車向けを中心とした玉軸受を主に扱うベアリング業界のイメージに影響されている部分があると感じています。現在、売上高の約4割を占める主力製品のニードルベアリングは自動車向けがほとんどなく、将来のEV化によるリスクは軽微です。むしろ、売上高の約半分を占める直動案内機器を中心に半導体製造装置等のエレクトロニクス関連機器向けの製品が最も多く、ここは今後も継続して成長が期待できる分野です。当社グループの事業内容や成長ストーリーを資本市場にしっかりと理解していただくためにも、情報開示の工夫やIR活動により一層注力していきます。
当社グループは「中計2026」を通じて、お客様と社会から選ばれる、魅力的な企業へ進化することを目指しています。「Connect for Growth ~I・K・Oでつなぐ、革新の未来~」を胸に、ステークホルダーの皆様とともに課題解決に取り組み、社会に貢献する「技術開発型企業」として、持続的に成長していきます。これからもより一層のご理解とご支援を賜りますよう、宜しくお願い申し上げます。
※本メッセージは2024年10月発行の統合報告書トップメッセージより一部抜粋し、転載しています。